なぜコーヒー豆を乾燥させるのか
コーヒー豆は実際どの部分かご存知でしょうか。コーヒー豆は、コーヒーチェリーと呼ばれる実の種にあたります。多くの場合、種以外の実や皮は利用しません。チェリーから取り出した豆は乾燥し出荷されます。では、なぜ乾燥させる必要があるのでしょうか。コーヒーは「焙煎」する事によって、香りや味が作り出されます。多くの場合、多すぎる水分は保管や運搬、しいては焙煎の邪魔になる為、ある程度乾燥した方が、良いと考えたのかもしれません。私の想像ですが、大航海時代の帆船で運ばれていた頃から荷姿もあまり変わっていないので、運搬コストを下げる為と理由が大きいのではないかと考えています。また、薄皮がついた状態(パーチメント)ではなく、脱殻後のグリーンビーンズで詰められるのも、堆積をなるべく減らそうという結果だと思っています。スペシャリティーコーヒー全盛の昨今は乾燥具合(コーヒー豆の水分量)や乾燥方法にも着目しています。次は、店主がブラジルで見てきたコーヒー豆の乾燥につてお話したいと思います。
天日乾燥と機械乾燥
コーヒー豆を収穫後、乾燥する際に日光の力を利用して自然に乾燥させる「天日乾燥」と人工的に作った熱風などをあてて乾かす「機械乾燥」の2つがあります。まず、天日乾燥ですが、文字通り天日で干して乾かすやり方になります。乾かし方もいくつかあり、整地された地面(パティオ)にコーヒー豆を広げて乾かすやり方や腰高くらいの棚(アフリカンベット)に豆を広げて干すやり方、直射日光を避け日陰で干すやり方などがあります。天日乾燥に共通することは、コーヒー豆の乾燥むらを避けるために定期的な撹拌が必要になります。撹拌は手間が非常にかかります。そこで機械乾燥の出番になります。機械乾燥は、豆の殻や木を燃やしてできた温風を、天日乾燥である程度乾いたコーヒー豆にあてて乾かします。温風は大体60度位でなるべくコーヒー豆にダメージを与えない様に注意しながら行います(コーヒー豆の精製の種類でも使える機械が異なります)。味や風味ですが、天日でじっくり乾燥させた方が豆に風味がのりますが、その分手間も増えますので価格が高くなる傾向になります。機械乾燥は機械コストはかかりますが、均一した製品が多く作れます。ブラジルでは、収穫期が年一回で大量に収穫する為、乾燥場がいくら広くても足りません。なので、ある程度天日で乾かしたら機械乾燥に回すのが一般的です。ただ、例外ももちろんあります。つぎは、農家さんの乾燥あれこれをお話します。
農家さんの色々
コーヒーの栽培はある程度、立地で決まります。標高や水捌けなど自分の努力ではなかなか改善できない箇所でもあります。ただ、精製方法、特に乾燥については工夫の余地があり、農家それぞれで工夫しています。ファゼンダと呼ばれる大規模農園は、効率重視なのでトラクターにグランドを平すトンボの様な物を着けて定期的に撹拌します。小さなシッチョと呼ばれる小規模農園でも同じ様な装置をバイクに着けて作業をします。より特徴を出したい場合、日陰でじっくり乾燥させたりなどしています。効率や味の追求だけではなく、金銭的に大掛かりな施設を作れないところなどは、村で共同で利用できる施設を作ったりしています。共同で利用するというと、イメージで恵まれておらず収益が上がらないのではと考えがちですが、コーヒーチェリーの処理を待っている事で「発酵」が促進され、風味が豊かなコーヒー豆ができる事もあります。
ところで、ブラジルでは水資源の保護で取水制限があります。自分の土地だからといって無尽蔵に地下水を汲み上げることはできません。その為、雨季に降る雨水を貯水池に貯めるのですが、その時に活躍するのがパティオです。天日乾燥で使われる広大なパティオは乾季は「乾燥場」として使いますが、雨季は雨水を集めるという重要な役割もあります。あと、機械乾燥で使われる木は多くの農園では自分の土地に生えている木を使います。ユーカリは脂分が多いからよく燃えて重宝すると聞いたことがあります。もちろん、木も植林して利用しています。また、コーヒーの殻であるパーチメントを燃料にする所もあります。
乾燥で見えてくること
イメージ的には天日乾燥が自然志向で環境にも優しく感じますが、実際のコストは高いです。撹拌に使う機械の燃料コストや人的コストなど、農家さんの苦労は現場に行ってみるとよくわかります。機械乾燥も、カーボンコストが高くイメージがあまり良くない様に思いますが、植林やパーチメントの殻の燃料など工夫はしています。私の自戒も込めてですが、味だけの追求だけではなく、生産現場の現状と自然環境への影響の両方を考えて、負荷のかからないコーヒーを選びたいと思います。